根付の蒐集について







はじめに

根付を入手する方法として、まず日本各地で開催されている骨董市やインターネットオークションがあげられます。どちらの方法であってもまず注意しなければいけないことは、出回っている根付と称されるものの大部分は本物の「根付」ではないということです。残念ながら根付も他の美術品と同様、偽物の存在からは逃れられません。価値を高めるために別人の手で著名な根付師の銘が彫られることが既に江戸時代から行われていました。

骨董市やインターネットオークションを見て回ると、現代にプラスチックや木で大量生産されたものを多く目にします。そのような偽物に根付という名前だけで不相応な値段が付けられているのです。

根付の「勉強」

偽物に惑わされないためにはどうすればいいのでしょうか。まずは「勉強」しましょう。ここでの勉強とは本物の「根付」を書籍やインターネットでとにかく多く見ることです。根付に関する書籍には研究書、展覧会の図録、オークションカタログといったものがあります。また、インターネットで根付の画像を検索すれば、玉石混交ではありますがいくらでも見ることができます。

書籍やインターネットで何百何千の根付を見ることで、様々な意匠、彫刻の細かさ、多くの素材、年月を経てきたことによる風合いなど、本当の「根付」がどのようなものなのかつかめてくるでしょう。根付を買うのはそれからでも遅くありません。

骨董市

骨董市では実物を見るにとどまらず、場合によっては触ることもできるという大きなメリットがあります。根付は他の美術品と違い、触ることで掌への収まりや彫刻の細かさなどその良さが初めて分かるものです。お店もしっかり断りを入れれば手にとらせてくれる所がほとんどでしょう。もちろん、売り物ですので他の物にぶつけたり下に落とさないよう細心の注意を払ってください。

また、骨董市によっては根付を専門に扱っているお店が出店していることがあり、そのようなお店では他にも印籠や煙管筒、緒締といった提物に関する様々な品物を見ることができます。

インターネットオークション

インターネットオークションは自宅で参加することが可能ですが、当然実物を見ることは出来ませんので、出品時の画像を見て判断するしかありません。画像では実物と色合いが違って見えたり、目立たない所に傷やひびなどが隠れていたりすることがあります。そのため落札して届いたものが思っていた感じと違うということもありえます。また、価格は参加者次第ですのであまり熱くなってしまうと予想以上の出費となってしまうかもしれません。こちらは骨董市などで実物に触れたりして慣れてからの方がよいでしょう。

海外オークション

面白い入手方法として、海外で行われるオークションに参加するというものがあります。

この場合、まず押さえておかなければならないこととして、象牙などワシントン条約の規制対象となっている素材の根付は手に入れることができません。オークションの開催国と日本の両国で輸出入の許可が下りないのです。また、現地通貨での取引となりますので為替によっては国内で同程度の根付を入手するよりはるかに高い価格となってしまうこともあるでしょう。

ハードルの高い方法ですが、名品・優品として書籍に掲載された作品などの新たな所有者になれるかもしれないということが海外オークションの一番の魅力でしょう。

根付の価格

根付はその四センチ四方程度のサイズに比べると、価格帯は高い部類の美術品といえます。根付は彫られている銘が価格に大きく影響しますが、同じ作者の作品であってもその出来や意匠により価格は変わります。また、根付には銘のない無銘の作品も多く存在しますが、ものによっては銘ありの作品をはるかに凌ぐ価格で取引されることがあります。

海外オークションでは名品・優品であれば百万円以上の値が付くことは珍しくなく、過去には数千万円の値段で取引されたケースもあります。本物の「根付」であればまず数千円で買えるようなものではありません。

根付の伝来

根付の状態も価格に影響を与えます。江戸・明治時代に作られた根付であれば作られてゆうに百年以上を経ているものですので、使用に伴う擦れや傷がみられることがほとんどです。

これらは大目に見られることが多く、紐穴部分の擦れは実用された証拠として偽物を見分けるポイントの一つといえます。対して象嵌の欠けや手足の折れ、明らかな補修、外国帰りの根付にたまに見られるひび割れ防止のオイルなどはマイナス評価となります。

また、状態とはちょっと違いますが有名コレクターの旧蔵品がオークションに出品される際は「伝来(Provenance)」としてその旨が明記され、注目される傾向にあります

それぞれの蒐集

根付の蒐集には百人いれば百通りの集め方があります。十二支をはじめとした動物の根付が好きな人、特定の根付師の作品を集めて研究している人、象牙・木・陶器など特定の素材の根付を好む人、饅頭根付や鏡蓋根付・柳左根付といった円い根付に惹かれる人、日本・中国の物語に沿った意匠の根付を集める人、研究書に載っている作品や有名コレクターの旧蔵品など優品・名品に狙いを定める人など、それぞれの性格や考え方の一端を表すものとなるのが面白い所です。根付に興味をもたれたら、誰も考えたことのないような自分だけのコレクションを目指してみてはいかがでしょうか。